9日目
キルアにあーんをしてもらい、綺麗に完食。
水を取り、薬を飲もうとするとキルアに奪われた。
『ちょっ、キルア?』
ぐいっと水を口に含み、薬も含んだキルア。
そのままキルアは無言で私に近づき、口移しで薬を飲ませる。
『んっ……ふぅ……』
キルアの舌が口の中で私の舌を押さえるから、抵抗することなく薬をごくりと飲み込んでしまう。
私が薬を飲み込んだのを確認すると、キルアは名残惜しそうに離れた。
「名前、薬嫌いなんだろ?あと、飲み込むの苦手みたいだったし」
『……もしかして、朝薬中々飲み込めなかったの見て…?』
何でこんなことしたんだろうと思えば、キルアは私が薬を飲み込むのが下手で何度も水を飲んでいたのを見たからだと言う。
口移しで入れれば飲みやすいかな、と考えたらしい。
『そっか…。ありがとう、キルア』
嫌だった?としゅんとするキルアを安心させるように頭を撫でて嫌じゃなかったことを伝える。
いきなりキスされたから驚いたけれど、全然嫌なんかじゃなかったのは本当だ。
やっぱり私、キルアのこと好き…なのかな。
一度蓋をした感情をすんなり紡いでみた。
すると、心のもやもやが晴れ、何だか満たされた気持ちになった。
ちらりとキルアに視線を移せば、椅子に座っているキルアと目が合う。
目が合うと、キルアはにこりと笑った。
…ドキドキする、や。
ああ、もう認める。
私、キルアのこと好きだ。
††††††††††
名前は嬉しそうに頬を緩ませながら俺が作ったお粥を食べてくれた。
そんな名前は、完食するとサイドテーブルに乗せてあった薬を飲もうとした。
俺は名前から薬と水を奪い取るようにすると、水と薬を口に含む。
この間見たドラマで、薬を口移ししてたのを見て今度名前にしてみようと考えてたんだ。
起きてる名前にキスするのは恥ずかしかったけど、名前にちょっとでも意識してもらうため。
俺はドキドキとしながら名前の唇に触れた。
舌を入れて口内を乱しながらも、薬を飲みやすいようにしてやる。
『んっ……ふぅ……』
鼻にかかった甘い声が名前から漏れて、興奮した。
けど、なんとか理性を保ち名前が薬を飲み込むと俺は名前の柔らかい唇から離れる。
少し上気した頬とか、潤んだ瞳とか、息が上がっているとかで名前はかなり色っぽい。
不思議そうな顔で俺を見てくる名前に言い訳ともとれる言葉を並べるけど、嫌だったかなと不安になる。
すると名前は少し照れながらも嫌じゃないって言ってくれた。
††††††††††
好きだと認めてから、何かキルアの顔をまともに見るのが恥ずかしくなった。
私は、後片付けに部屋を出たキルアを見送ると布団に顔を押し付ける。
『恥ずかしっ!……今までどうしてたんだろ』
最近恋愛などを疎かにしてたから、どうしたらいいのかがわからない。
確か、一番最近付き合ってたのは大学時代だったかな…?
それも年上の人だったからいつもさりげなくリードしてくれてた。
優しくって、ロマンチックな人で…、あれ、何で別れたんだろ。
……あ、そうだ。
大学二年目の夏、浮気されたんだ。
それを見て彼氏と別れてからずっと、私は勉強に集中して気づけばいい仕事についていた。
『彼氏いない歴も気づけば三年か…。しかも学生時代の恋愛しか経験してない。そりゃどうすればいいか分からないよね』
ううー…、と唸りながら頭を悩ませる。
駄目だ、何にも解決策が思い浮かばない。
つまらない女で学生時代同様飽きて捨てられる。
だから本気になるのが怖い。
で、結果逃げたら恋愛の仕方が分からないときた。
ここまで来たら笑える。
―ガチャンッ
「うわっ!」
台所から聞こえた食器の割れる音に私は一先ず考えることを止め、怠い体に鞭を打ってキルアのところへと向かった。
††††††††††
『大丈夫?』
私が声をかけると、キルアは肩を震わせた。
そんな姿に、私は思わずクスリと笑う。
「名前っ!悪い、起こしちまったか?」
慌てながら私を心配するキルアに、さっきまでうだうだ考えてた私が馬鹿らしく思えてきた。
そうだ、計算とかそんなこと考えるより私らしくいればいいんだ。
私は素のまま、今まで通りにキルアと向き合えばいい。
『私のことは大丈夫。怪我はない?』
「え、う、うん。あ、名前は破片に触るなって!俺が片付けるから!」
少し驚いたような顔をしたキルアは一瞬顔を赤くして、それから破片を片付けようとした私を見て顔を青くした。
最近思ったけど、キルアは表情がすごく豊かだ。
そんなキルアだから好きになったんだろうな…と幸せな頭が思う。
『うん。じゃあお願いね』
「おう!ほら、名前は早く寝ろって。風邪悪化すんだろ」
『はーい。…キルア、怪我しないように気をつけてね』
ちゅっ、とキルアの頬にキスをして寝室に戻る。
残されたキルアは顔を赤くして立ち尽くしていた。
「何か、今日の名前、いつもよりすっげえ綺麗…」
ぽつりと呟くように言ったキルアの言葉は誰にも届くことなく消えた。
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